猫社会の不思議読み解くと… とよた真帆さん・入交眞巳さん対談

対談したとよた真帆さん(左)と入交眞巳さん=岡田晃奈撮影
対談したとよた真帆さん(左)と入交眞巳さん=岡田晃奈撮影

 意外と知られていない猫の生態。その行動が示す意味について、飼い主の側に誤解も少なくない。保護猫ばかり5匹と暮らす女優のとよた真帆さんと、米国獣医行動学専門医の資格を持つ入交眞巳・日本獣医生命科学大講師が、猫たちの愛らしくも不思議な行動とその魅力について語り合った。

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とよた 5匹の保護猫に囲まれて暮らしています。猫同士、いろいろな関係を築くのですね。

入交 猫は群れで暮らさないと言われますが、実は社会性を持つ動物です。野良猫でもグループで一緒に暮らしていることがあります。グループ形成にはエサの量が関係していて、不十分な環境だと祖先のように1匹で生き延びようとし、十分あれば「一緒に暮らそうか」となる。とよた家では十分ご飯があるでしょうから、自然にグループ形成ができていると思います。

とよた 私はひとりぼっちで困っている様子の子だけを拾ってきます。そうして1年おきくらいに猫が増えていきました。すると「あ、また変なのが来た!」とシャーシャー威嚇する猫と、「わ、楽しそうな子が来た!」という感じで最初から興味津々で喜ぶ猫にわかれます。でも1週間くらいたつと、最初はシャーシャー威嚇していた猫同士が、急に毛繕いをし合う仲になっていたりもします。

入交 一般論ですが、先住猫にとってはクラスに「転校生」がやってくる感じになります。すぐに誰とでも仲良くなれる猫もいますが、やはり1、2週間はスペースをわけて過ごさせ、関係性を見極めていくのがいいでしょう。ウマが合う猫同士であれば、そのうちくっついて一緒に寝るはず。ほかにもお互いをなめ合うなどの様子が見られれば、仲がいいと言えます。

とよた ペト(オス、推定6歳)はいままで飼った猫のなかで一番かわっています。猫たちにすら理解できないような行動を取るのです。たとえばトイレをしたあと、家中を駆け回る。

入交 それはトイレが嫌いなのかもしれません。獣医学の論文では、トイレの後に砂もかけずに飛び出るのは、トイレ嫌いのサインだとされます。トイレを大きめなものにかえたり、数を増やしたりすると、その行動は見られなくなる可能性があります。

とよた 急に雄たけびをあげたりもします。そのせいか、特に年長の猫2匹はペトのことが苦手で、よくケンカをします。

 

愛猫について語るとよた真帆さん=岡田晃奈撮影
愛猫について語るとよた真帆さん=岡田晃奈撮影

入交 猫にも個性があり、好き嫌いは存在します。そのうえで野良猫の場合、母猫が妊娠中などに十分な栄養を得られないと、生まれる子猫が情緒不安定になることがあります。そうした猫の行動は、ほかの猫が理解できない可能性があります。

とよた ペトの場合、保護した時にかなり栄養状態が悪かったので、母猫もそうだったのかもしれません。ケンカをしていたら、止めた方がいいですか?

入交 ケガするようなケンカをしていたら、止めたほうがいいです。でも飼い主が手を出すと、人間の側がケガをする可能性もあります。お互いが離れるような方向におやつを投げるなどして、なだめるようにやめさせるのがいいでしょう。

とよた ペトは去勢手術をしたのに、紙袋などにオシッコをかけることもあります。その時に年長猫2匹がすごく怒ります。

入交 マーキングでかけるオシッコには個人情報がたっぷりのフェロモンが含まれています。そのフェロモンで自分のことを伝えてパートナー探しをしているケースがほとんどなので、去勢手術でおさまります。でも残り1割ほどは、個人情報によって自分の存在を示す「○○参上!」といった意味のコミュニケーションとして行われます。ペトの場合は後者のマーキングを、不必要な場所にしているのかも知れません。

とよた つまりKYなんですね……。猫の飼い方として、ケージで飼う方がいます。猫にとってはどうなのでしょう? 猫は本来、自由に動き回りたい動物というイメージがあります。

入交 家の中で自由にさせてあげるほうがもちろん幸せだとは思います。でも病気や猫同士の関係性の問題で、仕方なくケージの中で飼うケースもあるでしょう。その場合には3段重ねの大きめのケージにし、トイレと身を隠せるハウスを置いてあげて、時間を決めて外で遊ばせてあげる――などの工夫をしてあげるといいでしょう。

とよた 一緒に暮らす私たち人間は、どういうふうに見られているのでしょうか? 犬は人間に序列をつけるとも聞きます。

入交 犬が人との関係で序列をつけるというのは誤解です。犬も猫も同じく、人間のことを下に見たり上に見たりはしません。社会のなかの一員として受け入れているだけ。犬も猫もいろいろな行動を見せますが、それは単なる上下関係を示すものではなく、その場の状況やお互いの性格にあわせて振る舞いを決めて、社会を円滑に回そうとしているのです。

猫の生態について語る入交眞巳さん=岡田晃奈撮影
猫の生態について語る入交眞巳さん=岡田晃奈撮影

とよた 猫と人間はやはり「マブダチ」という関係が一番近いんですね。我が家では猫たちに自由にさせていて、何をされても絶対に怒りません。

入交 怒らないのはいいことです。何らかの行動をやめさせたい時、「私は知りません!」という意味をもつ「無視」をするのがいいとされています。

とよた しつけられるんですね。

入交 たとえばテーブルの上に乗るのをやめさせたい場合、猫の目を見ずにさっとテーブルからおろし、テーブルの下でおやつをあげます。すると猫は、下にいるほうが得だと学びます。猫は人間の3歳児くらいの知能を持っています。3歳児をおとなしくさせるにはどうすればいいか、と考えてみて下さい。

とよた 猫は約4千年前から人間に飼われ始めたんですよね。人間と暮らすのに適した猫たちが選択的に増えてきて、いまの「イエネコ」になったと聞きました。

入交 猫は野生ではありません。野良状態だと寿命は3、4年くらいになる場合もあります。人間が保護し、管理してあげる必要があります。野良猫でも無責任にエサをあげるのではなく、できればきちんと飼うか、飼えない場合は不妊・去勢手術をして次世代を増やさないようにしないと。

とよた 猫を殺処分しているという現実は、大きな問題だと思っています。不幸な運命をたどる猫を増やさないことが重要ですよね。我が家ではこれまで合計8匹の保護猫を飼ってきました。猫社会に人間が暮らすつもりで一緒に生活しています。

入交 気負わないで楽しく過ごすのが、猫との暮らしをより幸せなものにするのでしょうね。

とよた真帆(とよた・まほ)
1967年東京生まれ。女優。「もふもふ猫まみれ とよたさんちのマブ猫 22のハッピールール」が21日に発売予定。
入交眞巳(いりまじり・まみ)
1967年東京生まれ。日本獣医生命科学大講師、獣医師。専門は動物行動学。米国獣医行動学専門医の資格を持つ。
朝日新聞
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